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[25]『ウェブ進化論−本当の大変化はこれから始まる』 (梅田 望夫/ちくま新書) 2006/5/28 [読書]

 現在、著者は株式会社はてなの取締役を務めている。はてなといえば、かなり知名度の上がってきたWebサービスだが、これまではインテルのCPUを搭載したPCの、マイクロソフト製OS上に成り立っている、ヤフーを窓口としたインターネット世界での、1サービスという認識しか持っていなかった。つまり、ここ10数年で大きな進化を遂げたIT業界の中でも、後発で、ここに名を挙げたような媒体を通した先にあるコンテンツという程度でしか見ていなかったのだ。しかし、本書を読んでその考えは大きく変わった。
 世の中には、大別してハードとソフトという分け方がある。テレビやビデオもそうだが、まずはハード(製品・媒体)の開発が進み、市場で主導権を握る争いが起こる。その争いに決着が付いた後は、テレビ局、番組、DVDソフト(情報)といったソフトの争いが生じる。このソフトの争いは、ハードが次の世代に生まれ変わらない限り、延々と続くものである。そしてここには、ハードにしてもソフトにしても莫大なコストがかかる為、それらを提供出来るメーカーというのは自然と淘汰され、ごく限られた人間のみが情報の発信を許される結果となっていた。

 しかし、はてなや本書で頻繁に登場するグーグルは、この秩序を根底から覆そうとしている。今やパソコンが家庭にあり、それが高速のブロードバンド回線で常時世界中のネットワークに接続されているのが、当たり前の世界となった。誰でもテキストの文章を書いてネットワーク上に公開するのはもちろんの事、ホームページやブログ、ポッドキャストのように、簡単にテレビ局やラジオ局の真似事が出来るようになった。つまり、ソフト(情報)を生み出すコストが飛躍的に低下したのだ。これを、グーグルは検索エンジンという媒体を使って、はてなは人力検索やブログという媒体で、世の中に広める手段を確立した。今まではそのコスト故に、ごく限られた人間のみが許されていた情報発信の競争に、何ら経済力を持たない一個人の参画を可能にした。

 多くの人は、「とはいえ、一個人の情報の信頼性なんて・・・」と、あまり気には留めないかもしれない。でも、記憶に新しいところで言えば、「生協の白石さん」がそうであるように、マスメディアが取り上げない、不特定多数の情報の中に、非常に価値のある情報が紛れ込んでいることだって、きっと少なくない。例えばワールドカップの日本代表23人が選出された直後の、「24人目の代表を選ぶとしたら?」というヤフーアンケートの結果では、「松井大輔」がダントツの1番だった。つまり、サッカーをある程度知っている多くの人間は、久保の落選はサプライズではなく、むしろ松井の落選に大きな落胆を持っていたことが分かるが、ほとんどのテレビ番組では、松井の落選は大きくは取り上げられなかった。ここに、本書で著者がたびたび触れているロングテールの考え方と、マスメディアという存在のギャップが伺える。

 既存の有力メディアでさえ、やらせや不正の報道が絶えず、どこまでが操作されていない情報かというと、その信頼性たるや眉唾と言える世の中である。その中で、グーグルアースなどの革新的サービスで、媒体の提供方法を大きく変えようとするグーグルや、はてなのような会社が、今後は1コンテンツではなく、業界の・・・いや業界の枠組みを越えて、情報の秩序を根底から覆す可能性がある。そんな思いを抱かせる、一冊である。

ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる

ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる

  • 作者: 梅田 望夫
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2006/02/07
  • メディア: 新書


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[24]『すべては一杯のコーヒーから』 (松田 公太/新潮文庫) 2006/5/5 [読書]

 スペシャリティコーヒーで、スターバックスコーヒーと人気を2分する、タリーズコーヒー社長(現会長)の松田氏による自伝書。自分は断然、スタバよりタリーズ派。それは・・・。スタバでも、タリーズでも、注文するものは大抵モカなんですが、スタバのモカは牛乳の味が濃すぎる!ミルクをノンファットで注文して、ギリギリセーフといったところ。これはやはり、豆の違いなんでしょうかね。(分量や、使ってる牛乳の違いかもしれませんが・・・。)そんなワケで、自分は必ずタリーズを選びます。
 そしてこの本を読んでみると、このコーヒーにもの凄い情熱をかけている様が、詳細に記録されています。なるほど、美味しいワケだと思わせるだけの情熱を感じます。仕事とは、情熱と使命感を持ってやるべきだ。そして楽しめ、と。それでなければ、良い仕事は出来ない。美味しいコーヒーは淹れられないと、熱く語られています。確かにこれなら、タリーズのコーヒーは美味いだろうと思う反面、自分自身にそれらを置き換えてみると、自分にこれだけのバイタリティがあるかと自問し、へこむ部分もあります。

 強力なリーダーシップというのは、方向性を誤れば、単なるエゴと化してしまう可能性もあります。自分も、そういう場面を何度か見てきました。方向性を誤らないかどうかは、明確で具体的な”信念”があるかどうかだと思いますが、この松田氏には、確実にそれがあります。これだけ打ち込めるものがあれば、きっと人生楽しいでしょう。

 読後、銀座の1号店に行ってみましたが、開店までの苦労を読んだ後だと、非常に感銘を受けます。

すべては一杯のコーヒーから

すべては一杯のコーヒーから

  • 作者: 松田 公太
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2005/03
  • メディア: 文庫


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[23]『バカの壁』 (養老 孟司/新潮新書) 2006/2/26 [読書]

 養老氏の考えを、非常に分かりやすく学べる一冊だと思う。常々考えていたことでも、改めて言われて目からウロコが落ちたことや、ちょっと極端な発想すぎて賛同できない点など、色々思考のきっかけとなる一冊だったと思う。
 普段意識の中にある「壁」は、もちろん目に見えるものではなく、その存在は自身では気が付かないことが多い。壁の存在を気付く為には、自分の思考について常に疑問を持つことが必要ではないかと思う。養老氏が本書の中で、「若者には、個性を磨けと教えるのではなく、人の気持ちを分かるようになれ」と語っているが、まさしくそれは相手の立場や状況を思いやることで、己を振り返れという意味だろうと思う。己を振り返ることで、人間はまた意識的に次のステップに成長することが出来る。本来、人間とは日々何かしら変化があるものだが、それを意識的に行うか、無意識に行うかで、行動は大きく変わってくる。

 本書のテーマは、どこか直前に読んだ『アフター・ダーク』で挙げられている内容に近い気がする。登場人物が、壁を乗り越えていく様はまさにそう。「ゆっくり歩け、たくさん水を飲め」というモットーは、「性急に生きるな。ゆっくり歩いて、周りを見渡せ。たくさん水を飲んで、自分の心を落ち着けろ。」と聞こえる。幅の狭い価値観に囚われて、殺伐と生き急ぐ我々に向けた、問いかけのように聞こえる。

バカの壁

バカの壁

  • 作者: 養老 孟司
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2003/04/10
  • メディア: 新書


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[22]『アフターダーク』(村上春樹/講談社) 2006/2/18 [読書]

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「僕の人生のモットーだ。ゆっくり歩け、たくさん水を飲め」

〜P203より
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 3分の2程読み終えたところで、「残りのこの薄さでは、絶対『え?もう終わり?』と思うな」と予期しつつ読んでいたが、読後には思った程その感想を持つことは無かった。確かに物語としての完結感は、村上春樹氏の作品にしては、極端に薄い。しかしこれこそが、この作品の作風とも言える。
 村上春樹氏の作品に見られる"ファンタジー感"は、この作品にはほとんど登場しない。いくつかのコンプレックスや、特殊な事情を抱えつつも、逞しく社会を生き抜く等身大の青年が出てくる・・・そんな設定はいつもの作風と変わりは無い。しかし、この作品には、まるで今まさにこの世界のどこかで起こっているドラマの一部分を切り出したかのような、そんな"身近感"が漂う。

 一瞬感じる読後の物足りなさは、あたかもそのまままた新たな明日(現実世界)が始まるんだということを、宣言され、背中を押されるような気分になる。そして村上春樹氏は、言いたいのだと思った。「ゆっくり歩け、たくさん水を飲め」と。

アフターダーク

アフターダーク

  • 作者: 村上 春樹
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2004/09/07
  • メディア: 単行本


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[21]『キャッチボール ICHIRO meets you』 (イチロー, 糸井 重里/ぴあ) 2006/2/12 [読書]

 本書の中で一番印象的だった言葉が、
 『良い状態の時も、悪い状態の時も、周りは過剰に反応する。』

 という言葉。(正確じゃないかもしれないけど・・・。)

 イチローは、更にここから転じて、『どんな時でも平常心を保っていられる』ことこそが、『強さ』だと語っている。人間の弱さというのは、まさしくそこだと思う。人間は、落ち込む時も、自信過剰な時も、"周囲の声"で自分を過小、あるいは過剰に評価したり、あるいは自分で勝手に"周囲と比較"して、自分の実力を判断してしまうのだろう。

 それに左右されないというのは、並大抵の精神力では太刀打ちできないし、逆に左右されてしまった方が楽な時もある。でも、それを乗り越える努力を怠ってしまっては、成長が止まってしまう。イチローは、この言葉を通じてそういうコトを言いたいのだと思った。

 自分の実力が今どこにあるのかを見失わず、自分が目指したゴールに突き進むのは、至難の業ということである。

キャッチボール ICHIRO meets you

キャッチボール ICHIRO meets you

  • 作者: イチロー, 糸井 重里
  • 出版社/メーカー: ぴあ
  • 発売日: 2004/03
  • メディア: 単行本


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[20]『博士の愛した数式』 (小川 洋子/新潮社) 2006/2/5 [読書]

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まるで自分が、フェルマーの最終定理を証明したにも匹敵する偉業を成し遂げたかのような、ばかばかしい満足に浸っていた。

〜P209より
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 数字や数式が、まるで命ある生き物のように描写され、逆にそれを取り囲む人間が、無機質で機械的に感じられる。この作品の面白さはまさしくそこにあるわけだが、それを感じさせる描写力がとみに素晴らしい。この本を読むまでは、「0」が素晴らしいなんてちっとも思わなかったが、今や、なんとなく、いや、とても偉大な存在に思えてならない。(笑

 日常、無意識に、それこそ機械的に扱っている"物"たちが、実はとても深い意味を持っていて、愛するべき存在なんだと定義するこの手法は、まさしく純文学が真骨頂だと思う。この作品はその中でも、ストレートにそこに挑戦し、爽やかな感動を生み出している。この本を閉じたその時から、身の回りに溢れる数字の見え方が、変わっているに違いない。

博士の愛した数式

博士の愛した数式

  • 作者: 小川 洋子
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2005/11/26
  • メディア: 文庫


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[19]『海辺のカフカ』 (村上 春樹/新潮社) 2005/3/20 [読書]

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すべての物体は移動の途中にあるんだ。地球も時間も概念も、愛も生命も信念も、正義も悪も、すべてのものごとは液状的で過渡的なものだ。

〜下巻 P102より
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 過去自分が読んだ村上春樹作品の中で、最も文学的であると感じた。今までの作品が、「ファンタジーの中に見られる現実感」想像させるものだったとすれば、この『海辺のカフカ』は、「現実の中のファンタジー感」を想像させる。その点においてこの作品は、とても暗示的であるし、読み手がこの世界に自分との互換性を見つけることができるのではないか。

 いつも村上作品を読むたびに感じていた、”冒頭の読みづらさ”はこの作品には無い。冒頭から、ドラマチックな展開が小気味よいリズムで繰り広げられる。あまり難解さは感じない代わりに、ちょっと薄味な印象も否めないが、決して底が浅いわけではない。過去の様々な作品のテイストもちりばめられており、入門書としてもお勧め出来る一冊。

海辺のカフカ〈上〉

海辺のカフカ〈上〉

  • 作者: 村上 春樹
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2002/09/12
  • メディア: 単行本


海辺のカフカ〈下〉

海辺のカフカ〈下〉

  • 作者: 村上 春樹
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2002/09/12
  • メディア: 単行本


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[18]『陰摩羅鬼の瑕』 (京極 夏彦/講談社ノベルズ) 2004/10/17 [読書]

 ここまでの京極作品とは、ひと味違う作品。『姑獲鳥』から『塗仏』までは、その思考や世界観についていくのが精一杯で、最後に京極堂の語りによってすべてが明らかになった時に、新しい世界が開けたような爽快感が待っていた。
 しかし、これは違う。ここまで京極作品を読み続けたからか、はたまたテーマが自分の深く考えることの一つだったからなのかもしれないが、第1章を読み終えた段階で犯人が分かってしまった。いや、犯人だけでなくあらかたのストーリーが読めてしまった。あとは、その物語を確立する為の論理が展開されるだけである。

 この物語で語られるテーマは、とても深い——はずである。自分は以前、何度となくこのテーマについて考え、悩み、中途半端ながらもその答えを出している。だから、この展開についていくのは容易だったし、下手にミステリ要素を絡ませた分、京極作品で初めて、”物足りなさ”を感じてしまった。

 今思うのは、これを京極作品で初めて読んだ人がどう思うかということ。それでやっぱり、自分が『姑獲鳥』から『塗仏』までで感じていたことをその人が感じるのであれば、自分も少しは京極の世界に慣れてきたのかな、と思う。

 まぁ次の作品でその答えは出るのかもしれないが。

陰摩羅鬼の瑕(おんもらきのきず)

陰摩羅鬼の瑕(おんもらきのきず)

  • 作者: 京極 夏彦
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2003/08/09
  • メディア: 新書


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[17]『ここに地終わり 海始まる』 (宮本 輝/講談社文庫) 2002/9/6

 とても純粋なストーリーだった。物語的にはあまり抑揚はなく、どちらかというと各登場人物の心理描写がメインとなる。宮本輝の作品を読んだのは初めてだが、その淡々とした描き方は、三浦綾子の書き方に近いような印象も受けた。

 18年間の療養生活を送った少女の社会復帰・・・という、序盤強調されている話は、実はあまりこの作品全体の骨格とはならない。梶井克也と天野志穂子をメインに据えた、大げさな言い方をすれば人間再生の話が主題だ。最後の終わり方がとても良い。女性の描き方が特徴的であると言われて読んでみた作品だが、なるほど天野志穂子という登場人物は、不思議な魅力に溢れている。登場人物がとてもリアルなので、身近に気軽に楽しめる作品と言える。

ここに地終わり海始まる〈上〉 (講談社文庫)

ここに地終わり海始まる〈上〉 (講談社文庫)

  • 作者: 宮本 輝
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1994/10
  • メディア: 文庫


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[16]『GO』 (金城一紀/講談社) 2002/4/24 [読書]

 爽やかさと疾走感を併せ持ちながら、社会問題にも真っ向から向かっている、とても懐の深い作品だ。”在日”問題を扱ったという触れ込みから、ハードな社会派作品を期待した人にとっては、ちょっと物足りなく感じるのかもしれない。だけど”問題”なんて人によって捉え方の重さは違う。自分は自分。作者は、他ならぬ自分の目で、最後までこの恋愛と社会問題の織りなす作品を書き上げている。

 最初にも描いたが、本当に爽やかさが残る作品である。家族、恋人、友人、差別・・・。際どい所はあるが、どろどろとした重苦しい話はない。とても読みやすく、最後まであっさり読める。そして読み終わる頃には、この本を通して語られる”想い”が読む人を前向きにさせ、何かを考えさせる。そんな、”懐の深さ”があると思った。

GO

GO

  • 作者: 金城 一紀
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2000/03
  • メディア: 単行本


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