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[15]『有限と微少のパン』 (森博嗣/講談社) 2002/3/31 [読書]

 正直言って、納得が行かない終わり方。前半の展開的に、非常に引き込まれていただけに、余計かもしれない。確かにこういう話もありだと思うし、終わり方もすっきりしないわけではないんだが・・・。アノ人(←いちお伏せます)が出てくる作品としては、何ともパンチが弱い。っていうか、前回とキャラ変わってないか?って気がする。

 もちろん色々な論理でその意見は封じられてしまいそうだが、もしそういうつもりでこの人のキャラ、また世界観を構築してこの本がこの長さになったのだったら、それは拍子抜けである。単に一つの話とした場合、この物語がこれだけの長さになる必要は無いのではないか?と思ってしまった。題材がとても面白く、森氏の観念が垣間見える作品としてはとても面白かっただけに、残念だ。

有限と微小のパン

有限と微小のパン

  • 作者: 森 博嗣
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1998/10
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


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[14]『すべてがFになる』 (森博嗣/講談社) 2002/2/9 [読書]

 本書を読むのは2度目。月並みな言い方だが、初めて読んだ時のように楽しむ事が出来た。初めて読んだ時は、あまり理解しきれなかった部分を理解出来たり、また違った方面から読めたりしたからだろうか。多少鼻につく部分はあるものの、それを我慢出来れば、ミステリに新風を巻き起こしたという当時の評価に違わず、素晴らしい作品を読む事が出来るだろう。

 最初に読んだ時は、この異様な環境に驚愕したものだが、今となってはなんだか理想的な場所に思えてしまうのは、自分も年を取ったからだろうか。(笑)部分部分垣間見える森博嗣氏の考えにも、かなり共感出来る所はある。京極夏彦に並んで、”読める”ミステリと言えるだろう。

すべてがFになる

すべてがFになる

  • 作者: 森 博嗣
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1996/04
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


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[13]『金閣寺』 (三島由紀夫/新潮社) 2001/12/10 [読書]

 終わり方が良かった。終盤、自分が予想していた通りの終わり方をしたならばきっと興醒めだっただろうが、この終わり方をされたことで、この話の意味がぐっと広がったし、ある種のおぞましささえ感じた。ただ『金閣寺』と聞いて、誰がこういった話しを予想するだろう。

 基本的には、美に対する哲学的意識が中心の話しとなる。そしてその美の投影叉は比較の対象となるのが、自分自身であり、数少ない友人たちであり、または女性たちである。この兼ね合いが物語の中枢であり、意図する所である。この物語の中で、金閣は一つでは無い。各々が現実世界からの反映であり、また現実世界への反映となる。また、それ自体が一つの真実を持った現実の存在だ。

 物語り中の言葉は本当に巧み。これぞ作家と思わせられる。(時に行き過ぎた描写表現もある気がするが・・・)だが彼独特の世界観があり、それに着いていけるかで面白さは人によってかなり分かれそう。自分としても、かなり微妙な所であった。

金閣寺

金閣寺

  • 作者: 三島 由紀夫
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1960/09
  • メディア: 文庫


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[12]『火車』 (宮部みゆき/新潮社) 2001/10/5 [読書]

 いまいち消化不良な終わり方だった。途中の展開は面白く、なかなか読者を引きつけるに十分な筋道だっただけに・・・惜しい、という印象だ。現代のカード社会を精密に書き込み、見事に現代社会のブラックホールを表現していると思う。これを読んでいると、本当に自分の周りに危険な穴がぽこぽこ空いているような気がして不安になる。

 だがそうリアルであるために、逆に物語としての面白みに掛ける部分もある。あと筆力に欠けるような印象も否めない。その世界観にぐぐっと引き込まれるというよりは、一歩外から傍観しているような気がすると言えるだろうか。登場する世界が自分たちの世界と全く同じだけに、違和感がない分、小説独特の陶酔感も味わえない。ただ、読みやすいことは確かだろう。ミステリ色もあるし、あまり探偵物しい物語に抵抗がある人でも、気軽にとっつける内容ではある。

火車

火車

  • 作者: 宮部 みゆき
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1998/01
  • メディア: 文庫


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[11]『兎の眼』 (灰谷健次郎/角川書店) 2001/9/6 [読書]

 とても淡々とした調子で始まる序盤。人物描写なども非常にあっさりしている為、とっつき易い反面、感情移入しづらいという印象がある。実際、それぞれの登場人物が色みを帯びて動き出すのは、主人公の小谷先生が数々の事件を乗り越えて成長していくに連れてだ。

 つまりこの物語は、小谷先生という一般読者代表のような”普通の人”が、足立先生や鉄三ちゃんのような一風変わった人物たちと接し、教師として、人間として、成長していく姿を描くことで、一般読者さえもこの物語りの中に引きずり込んでしまう。終わってみれば、さすが教師出身の筆者のリアルな描写に爽やかな感動を覚えていることだろう。

兎の眼

兎の眼

  • 作者: 灰谷 健次郎
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 1998/03
  • メディア: 文庫


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[10]『絶対音感』 (最相葉月/小学館) 2001/8/18 [読書]

 小説かと思って読んだところ、著者の論文のような感じだった。これを読めば、絶対音感が何たるか。絶対音感を持つ人の体験談、また絶対音感が音楽を生業にしていくことに対する効果など、概要が把握出来る。だが、先にも書いたように論文のように淡々と文章が進められていくため、やや読みづらい印象も否めない。

 私が本屋で働いていたころ、この本はとにかくよく売れた。誰しもが抱く、音楽への憧れ。それを象徴していたのだろうか。救急車のサイレンでさえ、音名が分かってしまう。そんな超人的な能力、絶対音感。この1冊を読むことで、決してそれは特別な能力ではないこと、そしてそれが必ずしも”絶対的”な能力ではなく、しかも音楽をやっていく上で、時として障害になることもあるという事を知って驚いた。興味のある人は、是非一読を。

絶対音感

絶対音感

  • 作者: 最相 葉月
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 1998/02
  • メディア: 単行本


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[9]『文庫版 狂骨の夢』 (京極夏彦/講談社) 2001/7/14 [読書]

 この作品を読むのは2度目だ。だが、今回また初めて読んだかのような衝撃を得ることが出来た。それは、文庫化にあたって400枚以上の大幅加筆がされているのみならず、やはり京極夏彦という人の圧倒的な筆力によるものが大きいのだろう。1度読んだだけでは咀嚼しきれない、何度も何度も読み返してこそ得られる味わいがある。「あぁなるほど、良くできてるな」と素直に感心してしまった。

 わたしは、京極作品の中で敢えてこれを一押しする。(ファンの間では、評価はあまり高くないようだ。)それは、この作品の人間臭さにあるのではないかと、今回読んで思った。ミステリの大筋としては、非常に拍子抜けするような結末といえるかもしれない。だが、人間だからこそ考える愚行、人間だからこそ味わう恐怖、人間だからこそ迎える悲しみ…そういったものが、この作品にはあふれている。わたしはこの作品に、ミステリとしてより、人間ドラマとしての深い満足感を得た。

文庫版 狂骨の夢

文庫版 狂骨の夢

  • 作者: 京極 夏彦
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2000/09
  • メディア: 文庫


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[8]『Sydney![シドニー!]』(村上春樹/文藝春秋社) 2001/5/22 [読書]

 「オリンピックなんて退屈だ」という村上春樹が、シドニー五輪期間中オーストラリアに滞在して、見たり感じたりしたことを率直に文章にしている。村上春樹の著書は小説しか読んでいなかったので、今回初めてエッセイを読んで、とてもお茶目な人だと感じた。また、小説家としての村上春樹が改めて見えた気もした。

 著者は、基本的には現在のオリンピックの在り方について疑問を持っている。彼なりの観点で説かれるオリンピック論は、それなりに説得力がある。だが著者は、それはそれとしてオリンピックをせっせと楽しんでいる。そのギャップが何だかおかしい。そして、鋭い視点。特にマラソンやトライアスロンの件になると、自身が好きな事もあってか、熱のこもった文章がよく伝わってくる。スポーツライターとしても申し分ない筆力を、存分に発揮している。

 そもそも、オリンピックとは何なのか。メダルを獲るということは、何なのか。この著書の冒頭と巻末には、マラソンランナーの有森裕子と犬伏孝行についての文章が載っている。このオリンピックについてのみ言えば、完全な”敗者”である二人を、敢えてこの著書のメインに置いている。それは何を意味するのか。読み終わる頃には、自ずと答えは見えているはずだ。

シドニー!

シドニー!

  • 作者: 村上 春樹
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2001/01
  • メディア: 単行本


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[7]『チーズはどこへ消えた?』 (S.ジョンソン/扶桑社) 2001/4/28 [読書]

 今爆発的な人気でベストセラーとなっている、この本。電車の中では、ビジネスマンから女子学生まで、幅広い層の人が読んでいるのをよく目にする。どこがそんなに面白いのか?どこがそんなに為になるのか?また、上司に勧められて(半強制的に)という理由もあって今回この本を手にした。

 数時間で読み終わった。世の中の会社では、多くの社長がこの本を絶賛し、そして部下達に読ませるといった行為が行われているそうだが、何故こんな本をそこまで絶賛するのか私には結局理解出来なかった。別に批判しているわけではない。言わんとしていることは分かるし、とても単純明快に書いてある為むしろ何より解りやすい。だが、その分薄っぺらである感も否めない。正直言って、私を楽しませてくれる、また何かを諭させてくれるような本ではなかった事は確かだ。

 結局この本は、洗脳の為の本なんじゃないかと思う。単純な物ほど、人は飲み込み易い。宗教だって、悪徳商売だってそうだ。山奥の寺から降りてきたような風貌の修行僧に、いきなり「あなたはこの壺を買わないと、必ず不幸な目に遭う・・・」とまことしやかに説かれたら、やっぱり気味が悪い。(その壺を買うか買わないかは別としてね。)それと一緒で、どこぞの大企業の社長が、「この本は素晴らしい。この本の素晴らしさが解らない人間は、ビジネスマンとしてなっていない。」などと言ってたら、特に群れる文化を持つ日本人ならば、誰もこの本を批判したりはしないだろう。というかむしろ、みんな「この本は素晴らしいんだ」と(無意識に)思いこもうとしているのではないか。これが、つまり洗脳だ。

 「単純だけど、奥が深い」って言葉は、とても使いやすくて便利だ。だが、その本質の深い部分が何なのか、本当に思慮しているだろうか。そしてそれは別にこの本からでなくとも、普段私たちが読んでいる小説であったり、見ているドラマや映画であったり、聞いている音楽からでも得られるものではないだろうか。

チーズはどこへ消えた?

チーズはどこへ消えた?

  • 作者: スペンサー ジョンソン
  • 出版社/メーカー: 扶桑社
  • 発売日: 2000/11
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


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[6]『アトポス』 (島田荘司/講談社) 2001/3/28 [読書]

 かなり読み応えのある本だった。なんせ文庫なのに1000ページ近くもあって、電車などで立って読んでいると、腕が疲れてくる。御手洗ファン(あるいはレオナファン)でなければ、まず手を付けない作品だろう。しかし、肝心の探偵は最後の200ページほどしか登場しない。

 このボリュームだけに、話の内容はグローバルでとても壮大だ。しかし、今ひとつトリックのインパクトに欠ける気がするのも確か。いやトリック自体は確かに凄いのだが、あまりの壮大さに何かピンと来ないという方が正確かもしれない。先にも挙げたように、御手洗の登場機会が非常に少ないので、どうもここまでの御手洗シリーズとは異色な内容と言えるかもしれない。(まぁ強いて挙げれば『水晶のピラミッド』に近いか。)

 島田氏はとても好奇心旺盛な人で、博識な人だ。日本に対して批判的だとも言われている。この作品には、そういった島田氏の性格を物語るような節が数多く出てくる。だから、やっぱりそういう島田氏の性格を分かってないうちに読む作品ではない。過去のシリーズに登場する人物も出てくるので、順番通りに読むのが良いだろう。

 結論として、私自身としては島田氏の作品の中で高順位を得る作品ではないが、彼の独特のリアルな文章は健在である。ちょっと島田文章に飢えてきた時に、手を取ると良いのかもしれない。

アトポス

アトポス

  • 作者: 島田 荘司
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1996/10
  • メディア: 文庫


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