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[35]『弓と矢の国 -ハーマンモデルに基づいた行動分析-』 (高梨 智弘/シュプリンガー・フェアラーク東京) [読書]


 人間って、その正確や行動分類から大きくは4つぐらいに分かれるもので、身の回りにいる人についても「こういうタイプだよね」と、例えば血液型などでだいたい分類することが出来る。

 本書は、米国GE社のネッド・ハーマン氏が開発した、脳の優勢度から人間を分類し行動分析をする手法を分かりやすく解説したものである。元々の目的が創造的な組織の構築を目指すものであったことから、日常の仕事に非常に生かせるものである。多かれ少なかれ、企業に勤めた人であれば本書のような体験をしたことがあるだろう。企業が大きくなれば、なおさらである。本来の業務の目的とは別に、人間関係や利害関係、私利私欲といったものが絡んでくるから、どうしても違ったタイプの人間や抵抗勢力とは交わりづらい。これがスポーツであれば、「勝てない」というはっきりとした現象で目に見えてくるが、企業はそれでも案外廻ってしまうものである。だからこそ、なかなか縦割り組織は消えず、有機的な組織は構築されない。最近の流行は、横断組織のプロジェクトを組んで業務を進めていくというやり方があるが、これも”ただ集まる”という結果に終わっているケースが多いのでは無いか。

 大事なのは、本来の目的に対してベストな方法を導きだすことである。この為に自分の能力を最大限に生かし、違った特性を持った人間と有機的に融合しなければならない。自分もそれは常に意識しているものの、気がつくと人を選んだりしているものである。本書が常に傍らにあり、みんながそれを意識すれば、きっと強い組織が出来るに違いない。

弓と矢の国-ハーマンモデルに基づいた行動分析

弓と矢の国-ハーマンモデルに基づいた行動分析

  • 作者: 高梨 智弘
  • 出版社/メーカー: シュプリンガー・フェアラーク東京
  • 発売日: 2005/09/13
  • メディア: 単行本


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[34]『容疑者Xの献身』 (東野 圭吾/文藝春秋)  2007/11/3


 以前から数学は苦手な方だったが、社会人生活が長くなるにつれ、もっと数学を学びたいと思うようになっている。それは何かを成し遂げようと考えた時に、現状を分析し、それに影響を与える要素を検出し、検討しつつプランを作り上げていく様が、数学の数式を組み立てていく様に似ていることが、何となく分かったからだと思う。それは、『博士が愛した数式』を読んだのがきっかけだった。

 そして本作は、またもやその数学を軸に組み立てられた物語。この物語を読んでいると、遍く学問は、アプローチが違うだけであって目指しているところは同じなのではないかと感じる。結局は人間が組み立てている学問であって、人間か自分たちのことを知る為に学問は存在するのだろう。そのくらい、物語中の数学は自分が想像している数学とはかけ離れたものだった。

 東野圭吾氏の作品は、近年記憶に新しいところでは、殺人者と家族のその後を描いた『手紙』など、斬新な切り口が多い。この物語もまた、そんな氏ならではの視点で描かれた、他には無いミステリー小説である。

容疑者Xの献身

容疑者Xの献身

  • 作者: 東野 圭吾
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2005/08/25
  • メディア: 単行本


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[33]『死体は語る』 (上野 正彦/文春文庫) 2007/10/28 [読書]


 監察医とは、伝染病や異常死体などについて検死や解剖を行う医師のことで、全国でも東京、大阪、名古屋、横浜、神戸にしか制度がない。本書は、そんな監察医が自己の体験に基づく考えを記したエッセイである。伊藤洋一氏のPodcastで取り上げられていたのをきっかけに、読んでみた。

 さすがに数万という死体を検死した筆者だけに、死について語る口調は驚く程ドライで、あまり感情を込めては描かれていない。一般の人間には面食らう部分であるが、逆に死の周りにあるドラマや背景については、筆者の考えを盛り込んでウェットに描かれており、そのギャップに徐々に引き込まれていく。特に、自分も大学の卒論で取り上げたことのある脳死について触れられている点は興味深かった。改めて、生と死の境界線について考えさせられるところである。

 タイトルにもなっている「死体は語る」という言葉通り、本書を読んでいくことで、死体を通じて生きている人間のまた違った側面が見えてくる。

死体は語る (文春文庫)

死体は語る (文春文庫)

  • 作者: 上野 正彦
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2001/10
  • メディア: 文庫


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[32]『邪魅の雫』 (京極 夏彦/講談社) 2007/10/07 [読書]


人間、誰しもが持っている邪な思い。その危うさを、非常に巧みに描いている。出てくる登場人物は、皆人間臭く、身近に「あぁ、こういう人いるな。」と思わせるような者たちばかりだ。

すべてが計画されているような、無計画であるような、連続殺人事件。過去の作品が、どちらかといえば人間の英知が意図的に生み出した事件であるのに対して、今回はどこか幼稚で場当たり的な事件を感じさせる。もちろん、最後にその全容は明らかにされるわけだが、どこかスッキリしない感が残る作品でもある。それは、事件のトリックに関してではなく、きっとその人間臭さになんだろう。

今回は本当に”人間”が主人公で、京極堂シリーズお馴染みの妖怪の存在感は薄い。きっと「邪魅」は、人間の心に棲みつき、蜃気楼のような幻影を人間に見せてしまうのだろう。

あるところ、今までのシリーズの中で一番怖い話と思えた。

邪魅の雫 (講談社ノベルス)

邪魅の雫 (講談社ノベルス)

  • 作者: 京極 夏彦
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2006/09/27
  • メディア: 新書


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[31]『鴨川ホルモー』 (万城目 学/産業編集センター) 2007/7/22 [読書]

 ホルモーという奇怪な遊び(?)に対しての興味をおおいにそそられた以上に、京都という街や、登場人物たちの魅力に引き込まれた。これだけの話を、わっと広げて上手く畳むその展開の巧みさが、ストーリーとしては非常にあっさりな内容だが、もっとこの世界観に浸っていたいと思わせる所以だろう。映像化を睨んでいるかのような文体であるし、映画にすると、このスピード感あるストーリー展開が尚際立つのではないかと思われる。

鴨川ホルモー

鴨川ホルモー

  • 作者: 万城目 学
  • 出版社/メーカー: 産業編集センター
  • 発売日: 2006/04
  • メディア: 単行本


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[30]『ユナイテッドアローズ 心に響くサービス』 (丸木 伊参/日本経済新聞社) 2007/4/30 [読書]

 最近購入する洋服といえば、もっぱらユナイテッドアローズか、ジャーナルスタンダード系列。中でもアローズに関しては、スーツからカジュアルまで幅広く取りそろえられていて、デザインも自分好みだったので、書店で本書が目に留まってから、非常に興味を持っていた。

 本書は、アローズが掲げるCSへの取り組みの本気度というのが伺いしれる。今日日、「顧客満足度重視」を掲げない企業は無いだろうが、その一方で顧客である我々の満足が、大きく向上したかと言えば、疑問を感じざるを得ない。偽造のTV番組が作られたり、賞味期限切れの商品が売られたり・・・。もちろん、一部では本気で取り組んでいるのだろうと感じられる企業もあるが、直接的に我々が満足を感じる場面というのは、まだまだ少ない。

 その中で、ユナイテッドアローズは"販売"という最も顧客と接点のある場面において、その品質向上への取り組みへの情熱が感じられた。現場の末端までこれが浸透しているかどうかは、当然分からないし、本書の中でアローズ役員も「まだまだ浸透しきれていない」と認める。しかし少なくとも、"販売"にかける人件費を、"コスト"という見方をしていない点が素晴らしい。

 「顧客満足度」が関わる職業に就く者にとって、モチベーションとなる一冊だろう。

ユナイテッドアローズ心に響くサービス

ユナイテッドアローズ心に響くサービス

  • 作者: 丸木 伊参
  • 出版社/メーカー: 日本経済新聞社出版局
  • 発売日: 2007/01
  • メディア: 単行本


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[29]『1973年のピンボール』 (村上 春樹/講談社文庫) 2007/3/25 [読書]

 近年の村上作品が、過去を懐かしむような、または若い世代を遠くから眺めたような味があるのに対して、青春三部作の一つとも呼ばれるこの作品は、まさにリアルタイムの青春を描いている作品と言える。変わりゆくものへの哀しみ、将来に対しての漠然とした不安、些細なことにも喜びを見出す幸せ。そんな喜怒哀楽の浮沈の激しさが、非常に生々しくリアルに感じ取ることが出来る。

 文章自体は、氏の2作目ということもあって、荒削りな印象が否めない。ただ題材が題材だけに、それが青春の青臭さのようなものを引き立てている。そして青臭い自分に語りかけるように言う。『ゆっくり歩け、水をたくさん飲め。』と。

1973年のピンボール

1973年のピンボール

  • 作者: 村上 春樹
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2004/11
  • メディア: 文庫


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[28]『慟哭』 (貫井 徳郎/創元推理文庫) 2007/2/20 [読書]

 サスペンスとしては秀逸だが、ミステリとしては中途半端というのが、読後の感想。犯人は前半でアタリが付いてしまうので、謎解きの要素は薄い。複線が様々なところに引かれていたが、どれも露骨で分かりやすい。それでいて、いわくありげな登場人物たちが、意外にあっさりと扱われていたりと、物足りない部分が目立った。

 しかしかなりリアルに描写された、新興宗教、警察組織の摩擦やマスコミとの関係は、緊張感があって十分に楽しめた。本の厚さほど、長さは感じない。

慟哭

慟哭

  • 作者: 貫井 徳郎
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 1999/03
  • メディア: 文庫


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[27]『国家の品格』 (藤原 正彦/新潮社) 2007/2/5 [読書]

 「論理だけでは、世の中は破綻する。」という意見は、仕事上、いかに物事を論理的に考えるかを常に意識していた自分にとっては、なかなかショッキングな意見だった。だが、確かによくよく考えれば分かる事でもある。この世の中、本当に大事にしなければいけないことは、論理的には説明できない。だからこそ、宗教や風習のような形で、それらの教えは、非論理的に世の中に存在する。
本書はそれを明らかにするところから初め、本当に大事なところを、「武士道精神」や「祖国愛」に見出し、日本人としての品格を再獲得することを奨励する。

 思想的な善し悪しはさておき、言いたいことは良く理解出来るし、共感する部分も多々ある。私も1ヶ月ほどイギリスに住んでいた経験の中で、筆者と同じような体験を何度かしたし、同じような想いを抱くことがあった。現代社会におけるモラルは、最早急速に崩壊へ向かっているし、それに対しては最早対処療法的な処置では、歯止めが利かないことは明らかだ。その点において、本書は日本人の特性を良く捉えた「そもそも論」を的確に付いているとは思う。

 さて、阿部首相が提唱する「美しい国」で、果たして世界に誇れる日本の国家像は、再構築されるのだろうか。施政方針演説を聞く限りでは、あまり具体的な国家像は見えてこない。それに比べれば、本書で提唱される内容の方が、日本人としては具体的なイメージを持てると思う。

国家の品格

国家の品格

  • 作者: 藤原 正彦
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2005/11
  • メディア: 新書


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[26]『オシムの言葉-フィールドの向こうに人生が見える』 (木村 元彦/集英社インターナショナル) 2006/8/27 [読書]

 『負けた方が良い。』
 これは、オシム氏がサッカー日本代表監督に就任して初戦となる、トリニダード・トバコ戦を前に発した言葉である。この発言には、「負けた方が、日本の今の現実を直視出来る。」「ここで勝ってしまえば、”これで大丈夫”という自惚れが生まれる。」といった、警告めいた意図があったことは、容易に推測できる。だが、オシム氏には更に深い意図を持って発言したのではないかと、本書を読んだ後ではそう思う。

 スポーツをやっている以上、常に勝敗がついてまわり、特にプロスポーツともなれば、とりわけひたすらに勝利を求められる。これは残念ながら抗いようのないことだし、事実、何かを”成し遂げた”者にしか到達できない境地があり、常にそれを目指すアグレッシブさを、オシム氏も選手に求めているのが、本書ではよく伝わってくる。

 しかし、時にトリニダード・トバコ戦を前にしたように、『負けた方が良い。』といった発言をする。これは、私が推測するに、『勝負は時の運。勝つこともあれば、負けることもある。勲章という意味での差はあるが、自分の持てる力を100%出し尽くしてやった結果には、勝ちにも負けにも、大きな差は無い。勝ったあとも、負けたあとも、人生は続いてくのだ。目先の勝利に、一喜一憂するものではない。』と言ってように聞こえた。これは、祖国分裂、妻との生き別れという中でもサッカーを続けなければいけなかった、オシム氏の苦労の半生を慮れば、非常に重い言葉として、心に響く。トリニダード・トバコ戦といえば、ドイツW杯で惨敗した日本代表の、再始動試合として期待されたゲーム。周りは勝利で、悪夢を忘れ去ることを願っていたゲームだった。オシム氏は、「まぁその前に、一戦一戦をじっくり味わおう。苦い敗戦も、それもまた人生の中では味わわなければいけない味だ。サッカーに負けたところで、殺されるわけではない。次に、同じ相手を倒す楽しみを、また味わおう。」と、メディアを通して全サッカーファンに伝えているように聞こえた。本書を読んだ後だったからかもしれないが。

 更に本書を読んで思うことは、オシム氏の元での中田英寿を観てみたかったということだ。ここまで書いてきたような、基本的な考え方は、「nakata.net」で伝わってくる彼の考えと、非常に近いものを感じる。ただ唯一の違いは、オシム氏はその想いを、巧みに言葉に置き換え、行動に起こし、少しずつでも周囲に浸透させていく力を持っていた。中田英寿は、立場の違いこそあれ、その手段を持ち合わせていなかったのは事実だ。彼がオシム氏の言葉を聞き、何を想い、何を感じ、どんなプレーで我々観客に還元してくれるのかを観られなかったのは、残念でならない。

オシムの言葉―フィールドの向こうに人生が見える

オシムの言葉―フィールドの向こうに人生が見える

  • 作者: 木村 元彦
  • 出版社/メーカー: 集英社インターナショナル
  • 発売日: 2005/12
  • メディア: 単行本


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