[20]『博士の愛した数式』 (小川 洋子/新潮社) 2006/2/5 [読書]
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まるで自分が、フェルマーの最終定理を証明したにも匹敵する偉業を成し遂げたかのような、ばかばかしい満足に浸っていた。
〜P209より
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数字や数式が、まるで命ある生き物のように描写され、逆にそれを取り囲む人間が、無機質で機械的に感じられる。この作品の面白さはまさしくそこにあるわけだが、それを感じさせる描写力がとみに素晴らしい。この本を読むまでは、「0」が素晴らしいなんてちっとも思わなかったが、今や、なんとなく、いや、とても偉大な存在に思えてならない。(笑
日常、無意識に、それこそ機械的に扱っている"物"たちが、実はとても深い意味を持っていて、愛するべき存在なんだと定義するこの手法は、まさしく純文学が真骨頂だと思う。この作品はその中でも、ストレートにそこに挑戦し、爽やかな感動を生み出している。この本を閉じたその時から、身の回りに溢れる数字の見え方が、変わっているに違いない。
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