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[33]『死体は語る』 (上野 正彦/文春文庫) 2007/10/28 [読書]


 監察医とは、伝染病や異常死体などについて検死や解剖を行う医師のことで、全国でも東京、大阪、名古屋、横浜、神戸にしか制度がない。本書は、そんな監察医が自己の体験に基づく考えを記したエッセイである。伊藤洋一氏のPodcastで取り上げられていたのをきっかけに、読んでみた。

 さすがに数万という死体を検死した筆者だけに、死について語る口調は驚く程ドライで、あまり感情を込めては描かれていない。一般の人間には面食らう部分であるが、逆に死の周りにあるドラマや背景については、筆者の考えを盛り込んでウェットに描かれており、そのギャップに徐々に引き込まれていく。特に、自分も大学の卒論で取り上げたことのある脳死について触れられている点は興味深かった。改めて、生と死の境界線について考えさせられるところである。

 タイトルにもなっている「死体は語る」という言葉通り、本書を読んでいくことで、死体を通じて生きている人間のまた違った側面が見えてくる。

死体は語る (文春文庫)

死体は語る (文春文庫)

  • 作者: 上野 正彦
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2001/10
  • メディア: 文庫


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[32]『邪魅の雫』 (京極 夏彦/講談社) 2007/10/07 [読書]


人間、誰しもが持っている邪な思い。その危うさを、非常に巧みに描いている。出てくる登場人物は、皆人間臭く、身近に「あぁ、こういう人いるな。」と思わせるような者たちばかりだ。

すべてが計画されているような、無計画であるような、連続殺人事件。過去の作品が、どちらかといえば人間の英知が意図的に生み出した事件であるのに対して、今回はどこか幼稚で場当たり的な事件を感じさせる。もちろん、最後にその全容は明らかにされるわけだが、どこかスッキリしない感が残る作品でもある。それは、事件のトリックに関してではなく、きっとその人間臭さになんだろう。

今回は本当に”人間”が主人公で、京極堂シリーズお馴染みの妖怪の存在感は薄い。きっと「邪魅」は、人間の心に棲みつき、蜃気楼のような幻影を人間に見せてしまうのだろう。

あるところ、今までのシリーズの中で一番怖い話と思えた。

邪魅の雫 (講談社ノベルス)

邪魅の雫 (講談社ノベルス)

  • 作者: 京極 夏彦
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2006/09/27
  • メディア: 新書


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[31]『鴨川ホルモー』 (万城目 学/産業編集センター) 2007/7/22 [読書]

 ホルモーという奇怪な遊び(?)に対しての興味をおおいにそそられた以上に、京都という街や、登場人物たちの魅力に引き込まれた。これだけの話を、わっと広げて上手く畳むその展開の巧みさが、ストーリーとしては非常にあっさりな内容だが、もっとこの世界観に浸っていたいと思わせる所以だろう。映像化を睨んでいるかのような文体であるし、映画にすると、このスピード感あるストーリー展開が尚際立つのではないかと思われる。

鴨川ホルモー

鴨川ホルモー

  • 作者: 万城目 学
  • 出版社/メーカー: 産業編集センター
  • 発売日: 2006/04
  • メディア: 単行本


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[30]『ユナイテッドアローズ 心に響くサービス』 (丸木 伊参/日本経済新聞社) 2007/4/30 [読書]

 最近購入する洋服といえば、もっぱらユナイテッドアローズか、ジャーナルスタンダード系列。中でもアローズに関しては、スーツからカジュアルまで幅広く取りそろえられていて、デザインも自分好みだったので、書店で本書が目に留まってから、非常に興味を持っていた。

 本書は、アローズが掲げるCSへの取り組みの本気度というのが伺いしれる。今日日、「顧客満足度重視」を掲げない企業は無いだろうが、その一方で顧客である我々の満足が、大きく向上したかと言えば、疑問を感じざるを得ない。偽造のTV番組が作られたり、賞味期限切れの商品が売られたり・・・。もちろん、一部では本気で取り組んでいるのだろうと感じられる企業もあるが、直接的に我々が満足を感じる場面というのは、まだまだ少ない。

 その中で、ユナイテッドアローズは"販売"という最も顧客と接点のある場面において、その品質向上への取り組みへの情熱が感じられた。現場の末端までこれが浸透しているかどうかは、当然分からないし、本書の中でアローズ役員も「まだまだ浸透しきれていない」と認める。しかし少なくとも、"販売"にかける人件費を、"コスト"という見方をしていない点が素晴らしい。

 「顧客満足度」が関わる職業に就く者にとって、モチベーションとなる一冊だろう。

ユナイテッドアローズ心に響くサービス

ユナイテッドアローズ心に響くサービス

  • 作者: 丸木 伊参
  • 出版社/メーカー: 日本経済新聞社出版局
  • 発売日: 2007/01
  • メディア: 単行本


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[29]『1973年のピンボール』 (村上 春樹/講談社文庫) 2007/3/25 [読書]

 近年の村上作品が、過去を懐かしむような、または若い世代を遠くから眺めたような味があるのに対して、青春三部作の一つとも呼ばれるこの作品は、まさにリアルタイムの青春を描いている作品と言える。変わりゆくものへの哀しみ、将来に対しての漠然とした不安、些細なことにも喜びを見出す幸せ。そんな喜怒哀楽の浮沈の激しさが、非常に生々しくリアルに感じ取ることが出来る。

 文章自体は、氏の2作目ということもあって、荒削りな印象が否めない。ただ題材が題材だけに、それが青春の青臭さのようなものを引き立てている。そして青臭い自分に語りかけるように言う。『ゆっくり歩け、水をたくさん飲め。』と。

1973年のピンボール

1973年のピンボール

  • 作者: 村上 春樹
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2004/11
  • メディア: 文庫


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[28]『慟哭』 (貫井 徳郎/創元推理文庫) 2007/2/20 [読書]

 サスペンスとしては秀逸だが、ミステリとしては中途半端というのが、読後の感想。犯人は前半でアタリが付いてしまうので、謎解きの要素は薄い。複線が様々なところに引かれていたが、どれも露骨で分かりやすい。それでいて、いわくありげな登場人物たちが、意外にあっさりと扱われていたりと、物足りない部分が目立った。

 しかしかなりリアルに描写された、新興宗教、警察組織の摩擦やマスコミとの関係は、緊張感があって十分に楽しめた。本の厚さほど、長さは感じない。

慟哭

慟哭

  • 作者: 貫井 徳郎
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 1999/03
  • メディア: 文庫


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[27]『国家の品格』 (藤原 正彦/新潮社) 2007/2/5 [読書]

 「論理だけでは、世の中は破綻する。」という意見は、仕事上、いかに物事を論理的に考えるかを常に意識していた自分にとっては、なかなかショッキングな意見だった。だが、確かによくよく考えれば分かる事でもある。この世の中、本当に大事にしなければいけないことは、論理的には説明できない。だからこそ、宗教や風習のような形で、それらの教えは、非論理的に世の中に存在する。
本書はそれを明らかにするところから初め、本当に大事なところを、「武士道精神」や「祖国愛」に見出し、日本人としての品格を再獲得することを奨励する。

 思想的な善し悪しはさておき、言いたいことは良く理解出来るし、共感する部分も多々ある。私も1ヶ月ほどイギリスに住んでいた経験の中で、筆者と同じような体験を何度かしたし、同じような想いを抱くことがあった。現代社会におけるモラルは、最早急速に崩壊へ向かっているし、それに対しては最早対処療法的な処置では、歯止めが利かないことは明らかだ。その点において、本書は日本人の特性を良く捉えた「そもそも論」を的確に付いているとは思う。

 さて、阿部首相が提唱する「美しい国」で、果たして世界に誇れる日本の国家像は、再構築されるのだろうか。施政方針演説を聞く限りでは、あまり具体的な国家像は見えてこない。それに比べれば、本書で提唱される内容の方が、日本人としては具体的なイメージを持てると思う。

国家の品格

国家の品格

  • 作者: 藤原 正彦
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2005/11
  • メディア: 新書


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[26]『オシムの言葉-フィールドの向こうに人生が見える』 (木村 元彦/集英社インターナショナル) 2006/8/27 [読書]

 『負けた方が良い。』
 これは、オシム氏がサッカー日本代表監督に就任して初戦となる、トリニダード・トバコ戦を前に発した言葉である。この発言には、「負けた方が、日本の今の現実を直視出来る。」「ここで勝ってしまえば、”これで大丈夫”という自惚れが生まれる。」といった、警告めいた意図があったことは、容易に推測できる。だが、オシム氏には更に深い意図を持って発言したのではないかと、本書を読んだ後ではそう思う。

 スポーツをやっている以上、常に勝敗がついてまわり、特にプロスポーツともなれば、とりわけひたすらに勝利を求められる。これは残念ながら抗いようのないことだし、事実、何かを”成し遂げた”者にしか到達できない境地があり、常にそれを目指すアグレッシブさを、オシム氏も選手に求めているのが、本書ではよく伝わってくる。

 しかし、時にトリニダード・トバコ戦を前にしたように、『負けた方が良い。』といった発言をする。これは、私が推測するに、『勝負は時の運。勝つこともあれば、負けることもある。勲章という意味での差はあるが、自分の持てる力を100%出し尽くしてやった結果には、勝ちにも負けにも、大きな差は無い。勝ったあとも、負けたあとも、人生は続いてくのだ。目先の勝利に、一喜一憂するものではない。』と言ってように聞こえた。これは、祖国分裂、妻との生き別れという中でもサッカーを続けなければいけなかった、オシム氏の苦労の半生を慮れば、非常に重い言葉として、心に響く。トリニダード・トバコ戦といえば、ドイツW杯で惨敗した日本代表の、再始動試合として期待されたゲーム。周りは勝利で、悪夢を忘れ去ることを願っていたゲームだった。オシム氏は、「まぁその前に、一戦一戦をじっくり味わおう。苦い敗戦も、それもまた人生の中では味わわなければいけない味だ。サッカーに負けたところで、殺されるわけではない。次に、同じ相手を倒す楽しみを、また味わおう。」と、メディアを通して全サッカーファンに伝えているように聞こえた。本書を読んだ後だったからかもしれないが。

 更に本書を読んで思うことは、オシム氏の元での中田英寿を観てみたかったということだ。ここまで書いてきたような、基本的な考え方は、「nakata.net」で伝わってくる彼の考えと、非常に近いものを感じる。ただ唯一の違いは、オシム氏はその想いを、巧みに言葉に置き換え、行動に起こし、少しずつでも周囲に浸透させていく力を持っていた。中田英寿は、立場の違いこそあれ、その手段を持ち合わせていなかったのは事実だ。彼がオシム氏の言葉を聞き、何を想い、何を感じ、どんなプレーで我々観客に還元してくれるのかを観られなかったのは、残念でならない。

オシムの言葉―フィールドの向こうに人生が見える

オシムの言葉―フィールドの向こうに人生が見える

  • 作者: 木村 元彦
  • 出版社/メーカー: 集英社インターナショナル
  • 発売日: 2005/12
  • メディア: 単行本


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[25]『ウェブ進化論−本当の大変化はこれから始まる』 (梅田 望夫/ちくま新書) 2006/5/28 [読書]

 現在、著者は株式会社はてなの取締役を務めている。はてなといえば、かなり知名度の上がってきたWebサービスだが、これまではインテルのCPUを搭載したPCの、マイクロソフト製OS上に成り立っている、ヤフーを窓口としたインターネット世界での、1サービスという認識しか持っていなかった。つまり、ここ10数年で大きな進化を遂げたIT業界の中でも、後発で、ここに名を挙げたような媒体を通した先にあるコンテンツという程度でしか見ていなかったのだ。しかし、本書を読んでその考えは大きく変わった。
 世の中には、大別してハードとソフトという分け方がある。テレビやビデオもそうだが、まずはハード(製品・媒体)の開発が進み、市場で主導権を握る争いが起こる。その争いに決着が付いた後は、テレビ局、番組、DVDソフト(情報)といったソフトの争いが生じる。このソフトの争いは、ハードが次の世代に生まれ変わらない限り、延々と続くものである。そしてここには、ハードにしてもソフトにしても莫大なコストがかかる為、それらを提供出来るメーカーというのは自然と淘汰され、ごく限られた人間のみが情報の発信を許される結果となっていた。

 しかし、はてなや本書で頻繁に登場するグーグルは、この秩序を根底から覆そうとしている。今やパソコンが家庭にあり、それが高速のブロードバンド回線で常時世界中のネットワークに接続されているのが、当たり前の世界となった。誰でもテキストの文章を書いてネットワーク上に公開するのはもちろんの事、ホームページやブログ、ポッドキャストのように、簡単にテレビ局やラジオ局の真似事が出来るようになった。つまり、ソフト(情報)を生み出すコストが飛躍的に低下したのだ。これを、グーグルは検索エンジンという媒体を使って、はてなは人力検索やブログという媒体で、世の中に広める手段を確立した。今まではそのコスト故に、ごく限られた人間のみが許されていた情報発信の競争に、何ら経済力を持たない一個人の参画を可能にした。

 多くの人は、「とはいえ、一個人の情報の信頼性なんて・・・」と、あまり気には留めないかもしれない。でも、記憶に新しいところで言えば、「生協の白石さん」がそうであるように、マスメディアが取り上げない、不特定多数の情報の中に、非常に価値のある情報が紛れ込んでいることだって、きっと少なくない。例えばワールドカップの日本代表23人が選出された直後の、「24人目の代表を選ぶとしたら?」というヤフーアンケートの結果では、「松井大輔」がダントツの1番だった。つまり、サッカーをある程度知っている多くの人間は、久保の落選はサプライズではなく、むしろ松井の落選に大きな落胆を持っていたことが分かるが、ほとんどのテレビ番組では、松井の落選は大きくは取り上げられなかった。ここに、本書で著者がたびたび触れているロングテールの考え方と、マスメディアという存在のギャップが伺える。

 既存の有力メディアでさえ、やらせや不正の報道が絶えず、どこまでが操作されていない情報かというと、その信頼性たるや眉唾と言える世の中である。その中で、グーグルアースなどの革新的サービスで、媒体の提供方法を大きく変えようとするグーグルや、はてなのような会社が、今後は1コンテンツではなく、業界の・・・いや業界の枠組みを越えて、情報の秩序を根底から覆す可能性がある。そんな思いを抱かせる、一冊である。

ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる

ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる

  • 作者: 梅田 望夫
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2006/02/07
  • メディア: 新書


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[24]『すべては一杯のコーヒーから』 (松田 公太/新潮文庫) 2006/5/5 [読書]

 スペシャリティコーヒーで、スターバックスコーヒーと人気を2分する、タリーズコーヒー社長(現会長)の松田氏による自伝書。自分は断然、スタバよりタリーズ派。それは・・・。スタバでも、タリーズでも、注文するものは大抵モカなんですが、スタバのモカは牛乳の味が濃すぎる!ミルクをノンファットで注文して、ギリギリセーフといったところ。これはやはり、豆の違いなんでしょうかね。(分量や、使ってる牛乳の違いかもしれませんが・・・。)そんなワケで、自分は必ずタリーズを選びます。
 そしてこの本を読んでみると、このコーヒーにもの凄い情熱をかけている様が、詳細に記録されています。なるほど、美味しいワケだと思わせるだけの情熱を感じます。仕事とは、情熱と使命感を持ってやるべきだ。そして楽しめ、と。それでなければ、良い仕事は出来ない。美味しいコーヒーは淹れられないと、熱く語られています。確かにこれなら、タリーズのコーヒーは美味いだろうと思う反面、自分自身にそれらを置き換えてみると、自分にこれだけのバイタリティがあるかと自問し、へこむ部分もあります。

 強力なリーダーシップというのは、方向性を誤れば、単なるエゴと化してしまう可能性もあります。自分も、そういう場面を何度か見てきました。方向性を誤らないかどうかは、明確で具体的な”信念”があるかどうかだと思いますが、この松田氏には、確実にそれがあります。これだけ打ち込めるものがあれば、きっと人生楽しいでしょう。

 読後、銀座の1号店に行ってみましたが、開店までの苦労を読んだ後だと、非常に感銘を受けます。

すべては一杯のコーヒーから

すべては一杯のコーヒーから

  • 作者: 松田 公太
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2005/03
  • メディア: 文庫


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