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[23]『バカの壁』 (養老 孟司/新潮新書) 2006/2/26 [読書]

 養老氏の考えを、非常に分かりやすく学べる一冊だと思う。常々考えていたことでも、改めて言われて目からウロコが落ちたことや、ちょっと極端な発想すぎて賛同できない点など、色々思考のきっかけとなる一冊だったと思う。
 普段意識の中にある「壁」は、もちろん目に見えるものではなく、その存在は自身では気が付かないことが多い。壁の存在を気付く為には、自分の思考について常に疑問を持つことが必要ではないかと思う。養老氏が本書の中で、「若者には、個性を磨けと教えるのではなく、人の気持ちを分かるようになれ」と語っているが、まさしくそれは相手の立場や状況を思いやることで、己を振り返れという意味だろうと思う。己を振り返ることで、人間はまた意識的に次のステップに成長することが出来る。本来、人間とは日々何かしら変化があるものだが、それを意識的に行うか、無意識に行うかで、行動は大きく変わってくる。

 本書のテーマは、どこか直前に読んだ『アフター・ダーク』で挙げられている内容に近い気がする。登場人物が、壁を乗り越えていく様はまさにそう。「ゆっくり歩け、たくさん水を飲め」というモットーは、「性急に生きるな。ゆっくり歩いて、周りを見渡せ。たくさん水を飲んで、自分の心を落ち着けろ。」と聞こえる。幅の狭い価値観に囚われて、殺伐と生き急ぐ我々に向けた、問いかけのように聞こえる。

バカの壁

バカの壁

  • 作者: 養老 孟司
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2003/04/10
  • メディア: 新書


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[22]『アフターダーク』(村上春樹/講談社) 2006/2/18 [読書]

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「僕の人生のモットーだ。ゆっくり歩け、たくさん水を飲め」

〜P203より
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 3分の2程読み終えたところで、「残りのこの薄さでは、絶対『え?もう終わり?』と思うな」と予期しつつ読んでいたが、読後には思った程その感想を持つことは無かった。確かに物語としての完結感は、村上春樹氏の作品にしては、極端に薄い。しかしこれこそが、この作品の作風とも言える。
 村上春樹氏の作品に見られる"ファンタジー感"は、この作品にはほとんど登場しない。いくつかのコンプレックスや、特殊な事情を抱えつつも、逞しく社会を生き抜く等身大の青年が出てくる・・・そんな設定はいつもの作風と変わりは無い。しかし、この作品には、まるで今まさにこの世界のどこかで起こっているドラマの一部分を切り出したかのような、そんな"身近感"が漂う。

 一瞬感じる読後の物足りなさは、あたかもそのまままた新たな明日(現実世界)が始まるんだということを、宣言され、背中を押されるような気分になる。そして村上春樹氏は、言いたいのだと思った。「ゆっくり歩け、たくさん水を飲め」と。

アフターダーク

アフターダーク

  • 作者: 村上 春樹
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2004/09/07
  • メディア: 単行本


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[21]『キャッチボール ICHIRO meets you』 (イチロー, 糸井 重里/ぴあ) 2006/2/12 [読書]

 本書の中で一番印象的だった言葉が、
 『良い状態の時も、悪い状態の時も、周りは過剰に反応する。』

 という言葉。(正確じゃないかもしれないけど・・・。)

 イチローは、更にここから転じて、『どんな時でも平常心を保っていられる』ことこそが、『強さ』だと語っている。人間の弱さというのは、まさしくそこだと思う。人間は、落ち込む時も、自信過剰な時も、"周囲の声"で自分を過小、あるいは過剰に評価したり、あるいは自分で勝手に"周囲と比較"して、自分の実力を判断してしまうのだろう。

 それに左右されないというのは、並大抵の精神力では太刀打ちできないし、逆に左右されてしまった方が楽な時もある。でも、それを乗り越える努力を怠ってしまっては、成長が止まってしまう。イチローは、この言葉を通じてそういうコトを言いたいのだと思った。

 自分の実力が今どこにあるのかを見失わず、自分が目指したゴールに突き進むのは、至難の業ということである。

キャッチボール ICHIRO meets you

キャッチボール ICHIRO meets you

  • 作者: イチロー, 糸井 重里
  • 出版社/メーカー: ぴあ
  • 発売日: 2004/03
  • メディア: 単行本


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[20]『博士の愛した数式』 (小川 洋子/新潮社) 2006/2/5 [読書]

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まるで自分が、フェルマーの最終定理を証明したにも匹敵する偉業を成し遂げたかのような、ばかばかしい満足に浸っていた。

〜P209より
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 数字や数式が、まるで命ある生き物のように描写され、逆にそれを取り囲む人間が、無機質で機械的に感じられる。この作品の面白さはまさしくそこにあるわけだが、それを感じさせる描写力がとみに素晴らしい。この本を読むまでは、「0」が素晴らしいなんてちっとも思わなかったが、今や、なんとなく、いや、とても偉大な存在に思えてならない。(笑

 日常、無意識に、それこそ機械的に扱っている"物"たちが、実はとても深い意味を持っていて、愛するべき存在なんだと定義するこの手法は、まさしく純文学が真骨頂だと思う。この作品はその中でも、ストレートにそこに挑戦し、爽やかな感動を生み出している。この本を閉じたその時から、身の回りに溢れる数字の見え方が、変わっているに違いない。

博士の愛した数式

博士の愛した数式

  • 作者: 小川 洋子
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2005/11/26
  • メディア: 文庫


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[19]『海辺のカフカ』 (村上 春樹/新潮社) 2005/3/20 [読書]

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すべての物体は移動の途中にあるんだ。地球も時間も概念も、愛も生命も信念も、正義も悪も、すべてのものごとは液状的で過渡的なものだ。

〜下巻 P102より
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 過去自分が読んだ村上春樹作品の中で、最も文学的であると感じた。今までの作品が、「ファンタジーの中に見られる現実感」想像させるものだったとすれば、この『海辺のカフカ』は、「現実の中のファンタジー感」を想像させる。その点においてこの作品は、とても暗示的であるし、読み手がこの世界に自分との互換性を見つけることができるのではないか。

 いつも村上作品を読むたびに感じていた、”冒頭の読みづらさ”はこの作品には無い。冒頭から、ドラマチックな展開が小気味よいリズムで繰り広げられる。あまり難解さは感じない代わりに、ちょっと薄味な印象も否めないが、決して底が浅いわけではない。過去の様々な作品のテイストもちりばめられており、入門書としてもお勧め出来る一冊。

海辺のカフカ〈上〉

海辺のカフカ〈上〉

  • 作者: 村上 春樹
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2002/09/12
  • メディア: 単行本


海辺のカフカ〈下〉

海辺のカフカ〈下〉

  • 作者: 村上 春樹
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2002/09/12
  • メディア: 単行本


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[18]『陰摩羅鬼の瑕』 (京極 夏彦/講談社ノベルズ) 2004/10/17 [読書]

 ここまでの京極作品とは、ひと味違う作品。『姑獲鳥』から『塗仏』までは、その思考や世界観についていくのが精一杯で、最後に京極堂の語りによってすべてが明らかになった時に、新しい世界が開けたような爽快感が待っていた。
 しかし、これは違う。ここまで京極作品を読み続けたからか、はたまたテーマが自分の深く考えることの一つだったからなのかもしれないが、第1章を読み終えた段階で犯人が分かってしまった。いや、犯人だけでなくあらかたのストーリーが読めてしまった。あとは、その物語を確立する為の論理が展開されるだけである。

 この物語で語られるテーマは、とても深い——はずである。自分は以前、何度となくこのテーマについて考え、悩み、中途半端ながらもその答えを出している。だから、この展開についていくのは容易だったし、下手にミステリ要素を絡ませた分、京極作品で初めて、”物足りなさ”を感じてしまった。

 今思うのは、これを京極作品で初めて読んだ人がどう思うかということ。それでやっぱり、自分が『姑獲鳥』から『塗仏』までで感じていたことをその人が感じるのであれば、自分も少しは京極の世界に慣れてきたのかな、と思う。

 まぁ次の作品でその答えは出るのかもしれないが。

陰摩羅鬼の瑕(おんもらきのきず)

陰摩羅鬼の瑕(おんもらきのきず)

  • 作者: 京極 夏彦
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2003/08/09
  • メディア: 新書


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[16]『GO』 (金城一紀/講談社) 2002/4/24 [読書]

 爽やかさと疾走感を併せ持ちながら、社会問題にも真っ向から向かっている、とても懐の深い作品だ。”在日”問題を扱ったという触れ込みから、ハードな社会派作品を期待した人にとっては、ちょっと物足りなく感じるのかもしれない。だけど”問題”なんて人によって捉え方の重さは違う。自分は自分。作者は、他ならぬ自分の目で、最後までこの恋愛と社会問題の織りなす作品を書き上げている。

 最初にも描いたが、本当に爽やかさが残る作品である。家族、恋人、友人、差別・・・。際どい所はあるが、どろどろとした重苦しい話はない。とても読みやすく、最後まであっさり読める。そして読み終わる頃には、この本を通して語られる”想い”が読む人を前向きにさせ、何かを考えさせる。そんな、”懐の深さ”があると思った。

GO

GO

  • 作者: 金城 一紀
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2000/03
  • メディア: 単行本


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[15]『有限と微少のパン』 (森博嗣/講談社) 2002/3/31 [読書]

 正直言って、納得が行かない終わり方。前半の展開的に、非常に引き込まれていただけに、余計かもしれない。確かにこういう話もありだと思うし、終わり方もすっきりしないわけではないんだが・・・。アノ人(←いちお伏せます)が出てくる作品としては、何ともパンチが弱い。っていうか、前回とキャラ変わってないか?って気がする。

 もちろん色々な論理でその意見は封じられてしまいそうだが、もしそういうつもりでこの人のキャラ、また世界観を構築してこの本がこの長さになったのだったら、それは拍子抜けである。単に一つの話とした場合、この物語がこれだけの長さになる必要は無いのではないか?と思ってしまった。題材がとても面白く、森氏の観念が垣間見える作品としてはとても面白かっただけに、残念だ。

有限と微小のパン

有限と微小のパン

  • 作者: 森 博嗣
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1998/10
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


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[14]『すべてがFになる』 (森博嗣/講談社) 2002/2/9 [読書]

 本書を読むのは2度目。月並みな言い方だが、初めて読んだ時のように楽しむ事が出来た。初めて読んだ時は、あまり理解しきれなかった部分を理解出来たり、また違った方面から読めたりしたからだろうか。多少鼻につく部分はあるものの、それを我慢出来れば、ミステリに新風を巻き起こしたという当時の評価に違わず、素晴らしい作品を読む事が出来るだろう。

 最初に読んだ時は、この異様な環境に驚愕したものだが、今となってはなんだか理想的な場所に思えてしまうのは、自分も年を取ったからだろうか。(笑)部分部分垣間見える森博嗣氏の考えにも、かなり共感出来る所はある。京極夏彦に並んで、”読める”ミステリと言えるだろう。

すべてがFになる

すべてがFになる

  • 作者: 森 博嗣
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1996/04
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


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[13]『金閣寺』 (三島由紀夫/新潮社) 2001/12/10 [読書]

 終わり方が良かった。終盤、自分が予想していた通りの終わり方をしたならばきっと興醒めだっただろうが、この終わり方をされたことで、この話の意味がぐっと広がったし、ある種のおぞましささえ感じた。ただ『金閣寺』と聞いて、誰がこういった話しを予想するだろう。

 基本的には、美に対する哲学的意識が中心の話しとなる。そしてその美の投影叉は比較の対象となるのが、自分自身であり、数少ない友人たちであり、または女性たちである。この兼ね合いが物語の中枢であり、意図する所である。この物語の中で、金閣は一つでは無い。各々が現実世界からの反映であり、また現実世界への反映となる。また、それ自体が一つの真実を持った現実の存在だ。

 物語り中の言葉は本当に巧み。これぞ作家と思わせられる。(時に行き過ぎた描写表現もある気がするが・・・)だが彼独特の世界観があり、それに着いていけるかで面白さは人によってかなり分かれそう。自分としても、かなり微妙な所であった。

金閣寺

金閣寺

  • 作者: 三島 由紀夫
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1960/09
  • メディア: 文庫


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