[33]『死体は語る』 (上野 正彦/文春文庫) 2007/10/28 [読書]
監察医とは、伝染病や異常死体などについて検死や解剖を行う医師のことで、全国でも東京、大阪、名古屋、横浜、神戸にしか制度がない。本書は、そんな監察医が自己の体験に基づく考えを記したエッセイである。伊藤洋一氏のPodcastで取り上げられていたのをきっかけに、読んでみた。
さすがに数万という死体を検死した筆者だけに、死について語る口調は驚く程ドライで、あまり感情を込めては描かれていない。一般の人間には面食らう部分であるが、逆に死の周りにあるドラマや背景については、筆者の考えを盛り込んでウェットに描かれており、そのギャップに徐々に引き込まれていく。特に、自分も大学の卒論で取り上げたことのある脳死について触れられている点は興味深かった。改めて、生と死の境界線について考えさせられるところである。
タイトルにもなっている「死体は語る」という言葉通り、本書を読んでいくことで、死体を通じて生きている人間のまた違った側面が見えてくる。
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