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[26]『オシムの言葉-フィールドの向こうに人生が見える』 (木村 元彦/集英社インターナショナル) 2006/8/27 [読書]

 『負けた方が良い。』
 これは、オシム氏がサッカー日本代表監督に就任して初戦となる、トリニダード・トバコ戦を前に発した言葉である。この発言には、「負けた方が、日本の今の現実を直視出来る。」「ここで勝ってしまえば、”これで大丈夫”という自惚れが生まれる。」といった、警告めいた意図があったことは、容易に推測できる。だが、オシム氏には更に深い意図を持って発言したのではないかと、本書を読んだ後ではそう思う。

 スポーツをやっている以上、常に勝敗がついてまわり、特にプロスポーツともなれば、とりわけひたすらに勝利を求められる。これは残念ながら抗いようのないことだし、事実、何かを”成し遂げた”者にしか到達できない境地があり、常にそれを目指すアグレッシブさを、オシム氏も選手に求めているのが、本書ではよく伝わってくる。

 しかし、時にトリニダード・トバコ戦を前にしたように、『負けた方が良い。』といった発言をする。これは、私が推測するに、『勝負は時の運。勝つこともあれば、負けることもある。勲章という意味での差はあるが、自分の持てる力を100%出し尽くしてやった結果には、勝ちにも負けにも、大きな差は無い。勝ったあとも、負けたあとも、人生は続いてくのだ。目先の勝利に、一喜一憂するものではない。』と言ってように聞こえた。これは、祖国分裂、妻との生き別れという中でもサッカーを続けなければいけなかった、オシム氏の苦労の半生を慮れば、非常に重い言葉として、心に響く。トリニダード・トバコ戦といえば、ドイツW杯で惨敗した日本代表の、再始動試合として期待されたゲーム。周りは勝利で、悪夢を忘れ去ることを願っていたゲームだった。オシム氏は、「まぁその前に、一戦一戦をじっくり味わおう。苦い敗戦も、それもまた人生の中では味わわなければいけない味だ。サッカーに負けたところで、殺されるわけではない。次に、同じ相手を倒す楽しみを、また味わおう。」と、メディアを通して全サッカーファンに伝えているように聞こえた。本書を読んだ後だったからかもしれないが。

 更に本書を読んで思うことは、オシム氏の元での中田英寿を観てみたかったということだ。ここまで書いてきたような、基本的な考え方は、「nakata.net」で伝わってくる彼の考えと、非常に近いものを感じる。ただ唯一の違いは、オシム氏はその想いを、巧みに言葉に置き換え、行動に起こし、少しずつでも周囲に浸透させていく力を持っていた。中田英寿は、立場の違いこそあれ、その手段を持ち合わせていなかったのは事実だ。彼がオシム氏の言葉を聞き、何を想い、何を感じ、どんなプレーで我々観客に還元してくれるのかを観られなかったのは、残念でならない。

オシムの言葉―フィールドの向こうに人生が見える

オシムの言葉―フィールドの向こうに人生が見える

  • 作者: 木村 元彦
  • 出版社/メーカー: 集英社インターナショナル
  • 発売日: 2005/12
  • メディア: 単行本


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